「みなさん、ご存じですか? 現代によみがえったサムライのことを」
渋谷109をバックに、以前クラシックパンツを紹介していた女子アナが、オーバーなアクションを交えながらテレビカメラに向かって話しかけている。
「ここ、渋谷で最近話題になっているのが、本物のサムライなんです。信じられますか? とにかく、行ってみましょう」
季節はいよいよ夏到来という季節になった。あれ以来、私は意味もなく渋谷をぶらつき、若者に囲まれては写真をせがまれるという生活を送っている。あれだけ妻に疎んじられ、娘には煙たがられ、会社の後輩にも同情される存在だったハゲでダメオヤジの私が、若者に囲まれて写真をせがまれ、時には腕まで組まれ写真に収まる。そんな光景を今のようにテレビが映すということさえもある。どちらの生活が幸せかなんて、答えるまでもないだろう。
「見てください、あそこ。凄い人だかりですねー。恐らくあそこにサムライがいると思われます。ちょっと近づいて、インタビューしてみましょう」
「サムライデビュー」してから二週間が経とうとしていた。私はあの日以来、渋谷の名物として、予想だにせず有名になってしまった。はじめは若者たちの間だけの知る人ぞ知る存在だったが、次第に『クラシックパンツ』などの流行に敏感なテレビがそれをかぎつけて、私に直接インタビューをすることが増えてきた。そう、テレビ局にとってチョンマゲ姿の私は、ネタなのだ。それも、自分たちでは絶対に作り出すことのできない「おいしいネタ」。
ただ、知り合いに見られるのに抵抗があるので、昼間のニュース――というよりワイドショーに限って収録許可を出している。どこかの専業主婦がワイドショーを見て知るのは仕方ないにしても、妻や元同僚に見られるのはさすがに抵抗がある。こんな時初めて、妻が外で働いていることに感謝する。
「――サムライである彦左衛門さんは、どうして渋谷に来たのでしょう?」
ワイドショーなど、しょせん専業主婦のうさばらしの為の娯楽番組だ。自然、質問も、それに対する応えも真剣である必要などない。ちょっと感動的なことを言って、視聴率を稼げればそれでいいのだ。ならば私も割り切って、居心地のよいサムライ姿で居続けられるように、それっぽいことを言うだけだ。
「――私はやはり、日本人の一人として、日本の文化を失わせてはいけないと思っているのです。もちろん、新しい文化すべてを否定するつもりはありません。ですが、過去の日本文化すべてを否定するのもよくないと思うのです。私は、その橋渡しのために、ここ、渋谷で若者たちと触れ合っているのです」
「なるほど、だからサムライなんですね」
「そうです。サムライほど日本の美を体現した存在はいないのですから」
難しいことを言う必要もない。テレビの狙いとしては数字を取りながらも、なおかつ社会に対して何かを発信し続けなければいけないという存在意義があるのだから、その期待に添うように私は、現代日本への
「そうですね、日本文化は大事ですもんね」
若者の人だかりに囲まれながら、女子アナのインタビューに応えるサムライ姿の私。この姿が全国へ発信されると思うと、経済新聞の小さなインタビュー記事になった妻に対して妙な優越感を感じてしまい、襟を両手で大げさに整えたりと、必要以上に
「それに、最近の日本人は、日本の心とも言える、日本独自の大事な物の存在を忘れてしまっていると思うんです」
「たとえばどういったことなんでしょうか?」
日本語が下手なクセに英語が出来るという今時の女子アナが私にインタビューし、私はサムライとして日本の素晴らしさを若者に、そして茶の間に伝えている。
「たとえば私も着ているこの和服、一見高級そうでとっつきにくいと思われがちですが、昔は貧乏人でさえみんな和服だったのです」
「そう言われてみれば確かにその通りですね」
「そして、日本に住むのに最も適した服というのは、日本の気候に適した服だということになります。和服というのは、今のように衣服の大量生産ができない時代に、そして空調もないような時代に、日本のジメジメとした気候に合わせて作られた衣服なのです」
「なるほどぉ」
「和服というのは何枚も着重ねたりして、暑そうだったり面倒くさそうなイメージがありますが、実は風を感じることができる作りとなっているので洋服を着ているよりはるかに涼しいのですよ」
「わかります。浴衣なんてものすごく涼しく感じますもんね」
「そう、浴衣ももっと着ていいものなんです。クールビズも結構ですが、それ以上に衣服を改めて、空調に頼らない生活をしなければならないんです」
「ただでさえ地球温暖化と騒がれていますもんね」
「われわれ日本人は、日本の気候にあった、日本人らしい生活をするべきなのです。それこそ、現代に生きる日本人に求められることなのではないでしょうか?」
「まったくその通りですよね」
嫌な点も多いテレビだが、こういう機会を
(続く)
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長編小説『サムライ・ダディ』
作者:tkiyoto
清く、正しく、美しくも結構な欲望であると解釈するいたいけな物書き。ここでは未発表小説を公開しております。
作者の詳細は日記系ブログ『文は人なり』へ。