サムライ・ダディ

ハゲオヤジかつダメオヤジの主人公が、サムライの生き様を通して現代の「男らしさ」を探すヒューマンコメディ

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ch.78(最終話) ノーブレス・オブリージュ・メイク・サムライ(3)

『次はー、渋谷ー、渋谷ー』
 一年前には、あそこにいた。しかし、あそこにいた私はもういない。私は私の居場所を見つけた。私だからこそいられる場所を。
 今日もボランティアで日本文化の講座を教えるべく電車に乗っていたのだが、ふと、夕方のラッシュの人混みの先に、見慣れた人物を見かけた。
「あれは……」視線の先には背の高い高校生がいた。「タカシ君じゃないか?」
 タカシとはあれから切腹劇のお礼をするために一度会ったきりで、その時「俺も頑張ってみるッス」と言って別れたままだった。
「あれからもう、一年近く経つのか」
 時の流れの速さに驚くとともに、その時間の中で彼がどう生きてきたのか、妙に気になってしまう。気の強すぎる彼女、ミナとはどうなったのだろう? やっぱり尻に敷かれたままだろうか? それとも――色々と想像を膨らませながら彼に近寄ろうとすると、彼の声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっと」
 人混みの向こうからは、タカシの情けない声が聞こえてくる。やはり彼はあのままだったのだろうか? そんな不安を抱え、おそるおそる人混み越しに彼の方を見ると、そこで繰り広げられていた光景は、想像もしていないことだった。
「あの、バアちゃんがいるから席つめてくんねー?」
 タカシが他人に対して、席を譲れと言っているのだ。気の強い彼女に促されるままに慰謝料を請求したおバカな彼も、常識的なことを言うようになったものだと感心したのもつかの間、近づいてみて驚いたが、その相手が、大股を開いたガラの悪そうな高校生なのには二度驚いた。
「あ?」
 当然の如くにらまれるタカシ。若者の成長とは恐ろしいもので、大人が思った以上のことをしてくれる。だが、もういい。相手が悪すぎる。それだけ出来れば十分だ。とはいえ、そんな親心を抱いて見守る私に気づかないタカシは、その若さのまま突っ走っていた。
「だから、席つめてって……」
「誰に言ってんだ、テメェ?」
「お、お前だよ」
 タカシの勇気は称賛するが、それではケンカになってしまうだろ? そんな言い方じゃ。
「いい度胸してんじゃねーか」
 「危ない」私が声を上げるまでもなく、周りの人間が悲鳴を上げる。ガラの悪い高校生は立ち上がり、タカシにつかみかかる。なんでこんなに人間がいるのに誰も止めようとしない? 私は人混みに遮られて近寄ることも出来ないというのに。
「覚悟出来てんだろーなァ?」
 胸ぐらをつかまれたタカシは、さすがに顔が青くなっていた。
 しかしその時、信じられないことが起きた。
「おいしょっと」
 タカシの脇にいた老婆が、高校生が立つことで出来たスペースに躊躇なく座ったのだ。
「な、オイ! ナニ勝手に座ってんだよ!」
 周りから起きたのは声にならない失笑の嵐。まるでコントのような出来事に、周りの緊迫した空気は一気に変わった。
「ナニ見てんだよ!」ガラの悪い高校生は耳を真っ赤にしてタカシから手を離し、バツの悪そうな顔をしてとなりの車両へと移っていった。
「すげーじゃん、兄ちゃん、よくやったよ」
「ホントホント、勇気あるよ」
 気が抜けて腰砕けそうになったタカシを後ろのサラリーマンが支え、老婆のとなりに座らせる。
「兄ちゃん、ありがとな」
「は、はい……」
 タカシは老婆に感謝されたものの、もう、いっぱいいっぱいで座っているのも大変そうだった。
 私はこの光景を見て、ホッとし、声をかけるのを止めた。タカシは、もう、私が何かを言う必要のない男になっていた。たとえ弱々しくても、老婆の機転に助けられたとしても、結果がそれを証明してくれている。彼もサムライなのだと。

「皆さんが日本に来る前から、サムライという存在が日本にいたことを知っているかと思います……」
 今日は「サムライ」についての講義をするということで、いつもより多くの留学生が集まっていた。彼らの多くが「サムライ」という日本の代表的な精神の体現者に興味があるということなのだろう。壇上には例の模造刀を飾り、解説も加えながらサムライ文化の説明をする。
 講義もたけなわになり、生徒たちの興味が次第と「サムライ」の在り方へと集まってくるのがわかる。私はそれに、どう応えようか。今日のタカシの活躍ぶりを引き合いに出そうか、それとも――そんな事を考えながら講義をするのが、実に楽しい。
 これをリストラされた人間の早すぎる隠居いんきょだと言う人間もいる。しかし、私はまだまだ老け込むつもりはない。いつか海外でこういったことを行うことも夢みている――できれば娘と一緒に。若くはない。収入も少ない。持ち出しになることもあるかもしれない――しかし、守るべきもののためにはそれさえも乗り越えられる――
「……これまで見てきたように、サムライの本当の仕事とは、必ずしも戦って相手を殺すことではなく、サムライという『位高き』地位につく人間として、ふさわしい行動を取ることが大事なことなのです。刀を持っているサムライは、そうしなければいけない義務を負っているのです。そのサムライたちの精神を支えてきた『ブシドー』と呼ばれる、この、ノーブレス・オブリージュの精神は、現在でも持つことが可能なのです。持とうと思うすべての人が、持つことができるものだと、私は考えています」
 生徒たちは不思議そうな顔をして私の顔を見ている。サムライは日本人だけが持てるものだと、男だけが持てるものだと、そして一握りの強い人間だけが持てるものだと、言わんばかりの顔だ。かつての私もそうだっただけに、その言い分は痛いほどわかる。だが、それだからこそ私は声を大にして言える。
「守るものがあれば、その為に人は『サムライ』になれるのです」
 ――そう、家族が誇りに思える私であるために。

(了)


 今回で小説『サムライ・ダディ』は終了です。最後までおつきあいいただきありがとうございました。もしよろしければ下記のフォームを利用して感想などお聞かせください

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  1. 2007/06/25(月) 23:27:58|
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長編小説『サムライ・ダディ』

プロフィール

作者:tkiyoto
清く、正しく、美しくも結構な欲望であると解釈するいたいけな物書き。ここでは未発表小説を公開しております。
作者の詳細は日記系ブログ『文は人なり』へ。

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